大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和52年(オ)652号 判決 1977年12月19日

上告人

渡辺功

右訴訟代理人

吉川五男

被上告人

農事組合法人大井集団養鶏場

右代表者清算人

安藤新熊

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人吉川五男の上告理由について

農事組合法人の出資組合員の責任は、農業協同組合法に別段の定めがある場合のほか、その出資額を限度とすることは、同法七三条一項、一三条四項の規定するところであり、右のいわゆる組合員有限責任の原則により、組合員に出資額を超えて責任を課することは、たとえ組合員全員の同意があつても、許されないといわなければならない。しかし、具体的に確定した組合債務につき、組合員総会における組合員全員一致の決議に基づき、組合が出資額を超えて組合員に義務を課することは、組合員有限責任の原則に触れるものではないというべきである。これと異なる見解に立つて原審の判断を論難する所論は採用することができない。その他、所論の点に関する原審の判断は、原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、いずれも採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(本林譲 大塚喜一郎 吉田豊 栗本一夫)

上告代理人吉川五男の上告理由

一、原判決は農業協同組合法第七三条第一項、同法第一三条第四項に違背し、右法令違背は判決に影響を及ぼすこと明らかなものであり、よつて原判決は破棄されるべきである。即ち、

(一) 原判決はその理由中において「組合員有限責任の原則を越えて組合員の責任を加重することを内容とする総会の決議は、組合員全員の同意を待つて初めてその効力を生ずるものと解すべきである」と判示する。

つまり責任を課される組合員の同意さえあれば組合員有限責任の原則を越え得るとする。

(二) 農事組合法人における組合員有限責任の原則は法によつて規定せられた一の客観的制度である。このような組合員有限責任の原則が担保となつて農事組合法人制度は存在しているのである。

比較すれば株主有限責任の原則が担保となつて株式会社制度が存在し得るのと同様である。

個々の組合員の同意によつて組合員有限責任の原則が潜脱されるとするならば客観的な制度としては成り立つていかないことになる。

株主全員の同意があれば株主有限責任の原則を越えて株主に責任を課し得るとすれば株式会社制度が法の規定するものから大きく変容を受けてしまうことになり、それは許されないのと同様に、農事組合法人においても、組合員有限責任の原則は、組合員全員の同意によつても動かし得ない、法の規定すら客観的制度である。

ところが原判決は、この点における農業協同組合法第七三条第一項、同法第一三条第四項の解釈・適用を誤り、組合員全員の同意さえあれば組合員有限責任の原則を越えて組合員に責任を課すことができると判示し、そのことから上告人に対し負債負担金を課している。右法令違背は原判決に影響を及ぼすものであることは多言を要しないところである。

二、原判決は理由不備及び理由齟齬の違法があり破棄を免れない。即ち、

(一) 前記第一項(一)に記載のとおり原判決は「組合員有限責任の原則を越えて組合員の責任を加重する総会決議は、組合員全員の同意を有効要件とする」旨の判示をする。

従つて右判示により、本件負債負担金を上告人に課し得るためには、負債負担金を組合員兼役員全員に負担させる旨の総会決議の外に、右総会決議を組合員全員が同意したとの判示が必要である。

しかし、原判決においては総会決議は「組合員兼役員である一三名全員出席のもとに異議なく議決された」との判示のみがあり、右議決を全組合員が同意したとの判示は存在しない。

従つて原判決は理由を附していない違法がある。

(二) 原判示によれば「本件決議は、右組合員兼役員である一三名全員出席のもとに異議なく議決され」、そのことは「右の趣旨(即ち組合員有限責任の原則を越えて組合員の責任を加重する総会決議は、組合員全員の同意を待つて効力を生ずるとの趣旨)に合致し有効である」とする。

即ち一三名全員の異議ない、満場一致の議決が、組合員全員の同意あつたこととするが如くである。

しかし、組合総会における議案への賛成の意思表示は、あくまで組合の総会という内部的意思決定機関における、機関意思形成のための意思表示であつて、組合員個々人の意思表示ではない。組合総会における満場一致の議決と組合員による全員の同意(これは組合員個人の意思表示)とは明らかに異る。

組合総会における全組合員一致の議決と、組合員個人々々の全員の同意とを原判決は同視し、組合総会の全員一致の議決とらえて、組合員全員の「同意」があつたとする。この点で原判決には理由齟齬の違法がある。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例